高梨は普段は冷静沈着なのにカッと熱くなっている様子からすると、梓への気持ちは嘘偽りない。
だから、真っ向勝負に出るなら今しかないと思った。
「何を言ってるんだ……。昔は柊の彼女だったかもしれないけど、今は柊の恋人じゃない。」
「先生はあいつの事を何も分かってねーだろ?今あいつの身に何が起こってるかさえ…。」
「…それは、何の話だ。」
高梨はそう言ってハッと目を見開いた。
カマをかけてみたけど、やっぱり梓の現況に気付いていない。
だから、俺の話に戸惑いを見せている。
「センセーは人から祝福されないような関係を続けているから、見えるものが見えなくなってるの。梓は素直だけど、いつも肝心な事を口にしないから、こっちが先に気付いてあげないと守ってあげれないよ。」
「見えなくなってるもの?肝心な事?…わかるように説明しなさい。」
「それがわかんないなら、この勝負は更に燃えるな。まぁ、あいつの問題は一番近くにいる俺しかわかんないと思うけどね。」
蓮は勝気な態度でそう言い残すと、背中を向けて高梨に手を振って立ち去った。
高梨は梓の身に起きている事にまだ気付いていない。
あいつの事だから、きっと心配させないように胸に留めているのだろう。
高梨の気持ちがまだ深部に行き届いていないのなら、梓を守れるのは高梨じゃなくて俺しかいない。
泣いてる時も笑っている時も、梓の隣で青春時代を共に過ごしたかけがえのない時間。
二年間交際を続けた俺にしかわからない、梓の心情。
コツコツと積み重ねてきた愛情だけが、俺の心を奮起していた。