梓は蓮の行動を先読みして、掃除道具入れのロッカー前に回り込んだ。



「だだだ、大丈夫…。そっそう、私なら大丈夫だから、もうお弁当箱の事は忘れて…。」



動揺するあまり思わず声が裏返る。
その上、蓮の表情が怖くてこれ以上の言葉が出てこない。



「お前が許しても、俺が許さねぇ………。」



ヒートアップした蓮の怒りは簡単に収まりそうにない。
でも、犯人が名乗りでる様子がないから蓮を止めるのは私しかいない。





蓮…、ダメだよ。
気持ちを抑えて……。


そんなに血圧上がると…。
もっと早死にしちゃうよ。


しかも、原因は私の弁当一つ。
蓮の18年間の人生からすると、弁当の問題なんて全然大したことないんだよ。


私の為に先の短い人生を犠牲にしないで。




ブレザーが湿りそうなほど冷や汗でビッショリになった梓は、莫大なストレスは命と引き換えになってしまうのではと思い、宥める事に徹した。



「…ほっほら、もう忘れよう。落ち着いて、怒りを鎮めて。ストレスを貯めると蓮がぶっ倒れちゃう。」

「はぁあ?お前の弁当が床にブチまけられてんのに許せる訳ねぇだろ。」


「私ならもう大丈夫だから。」

「俺が大丈夫じゃねぇよ。梓の弁当箱ぶちまけたヤツ出てこいよ。俺が相手してやっからよ!」



もうダメだ。
蓮の腰にしがみついても暴走は止まらない。
まるで一本のネジが外れてしまったかのように…。



こんな時はどうしたら……。
いや、もうどうしようもないな。



梓は騒動を止められるのは自分しかいないと思い、蓮左腕を掴み、蓮のカバンを机から取ってから教室を出て行った。