チャイムが鳴って授業を終えると、先生は再び蓮を名指しした。



「柊くん。全員分の数学のワークを集めて、職員室まで持ってきなさい。」

「…何?俺一人で集めて持って行くの?」


「男なんだし、全員分のワークくらい一人で持てるだろ。」

「俺、今さぁ…学園祭で焼きそば焼き過ぎて手が痛いんで一人では無理……。あっ!俺の彼女に一緒に手伝ってもらえばいいのか。おーい、梓~。」


「……っ……分かりました。」



蓮の挑発行為は先生の怒りレベルを一段階上げた。



手元の教科書と資料をトントンと整理している先生の瞳の奥は一切笑っていない。
蓮も嫌みたらしく鼻で笑う。


結局…。
予想通りの展開になってしまったのね。






集め終えた全員分のワークを持って肩を並べて歩く蓮に言った。



「お願いだから、これ以上先生に挑発しないでよ。」

「なんで?俺はあいつが無性に気に食わねぇし。」


「だからって、あんな言い方をしたら先生との関係が不自然だなってみんなに思われちゃうでしょ。」

「あいつだって俺ばかり名指ししてくるだろ。こっちだって相当ストレスが溜まってんのに。」


「先生に挑発行為だけはやめて。そんなバカみたいな真似を繰り返すと、蓮が損をするだけだよ。」

「損はしねぇ。あいつからお前を返してもらうまで俺は戦い続ける。俺の生死はお前にかかってるからな。」



…と、男らしくキッパリと言い切った蓮は半分カッコつけて言ったが。
梓は衝撃的な言葉が伝えられると、混乱するあまりに思考が一旦停止した。



え…。
いま『俺の生死はお前にかかってる』って言ったの?


それは、蓮の寿命の鍵は私が握ってるっていう意味?
私が蓮の運命を左右してるキーパーソンなの?

だとしたら…、私にはその責任が重過ぎる。



蓮が勢い余って何気無く口にした一言が、梓にとっては命の生死と履き違えてしまい、更に混乱を招く事態へ…。