ドンッ………
「…あ、悪りぃ。」
調子に乗って後ろ向きで走っていた蓮は、職員室前の廊下でぶつかった相手にすかさず謝った。
ところが、そのぶつかった相手の顔が二人の視界に飛び込んだ瞬間、言葉を失った。
その蓮がぶつかった相手とは、渦中の人物である高梨先生。
そう、私の彼氏だ。
先生は、仲睦まじそうにふざけ合っている私達を何も言わずにじっと見つめていた。
すると、蓮は満面の笑みで持っている30冊ほどのノートを先生に勢いよく押しつける。
「センセー、ちょうど良かった。はい、全員分の数学のノート!」
高梨はノートを受け取ると、蓮は馴れ馴れしく梓の肩を組んだ。
「じゃ、梓。仕事が終わったからもう行こうぜ〜。」
「ちょっ…ちょっと……。蓮…。」
高梨の目を気にする梓は、蓮の突拍子もない行動に動揺を隠せない。
蓮は私の気持ちなんてお構いなし。
後ろ髪が引かれる思いの私の肩を、動けないほどの力で組み職員室前から離れていく。
冷や汗混じりで先生の方に振り返ると、先生は困惑した表情を隠すかのように手で口を覆っている。
一方の蓮は、横目でニヤリと勝ち誇ったような表情を高梨に向けている。
宣戦布告……だ。
先生は、私と蓮が付き合っていた過去を知らない。
だから、ヤケにまとわりつく蓮の行動を見て、どう思ったのだろうか。