【人から借りてきた大事なモノ】を、先着順に次々とマイクを回して発表していく生徒達。
まさか、蓮が私を校内から探し出して借り物競争のステージに立たせるとは、思いもしなかった。
順番が来たら司会者に何て言うのかな。
うわぁ、ドキドキする。
恋人の高梨先生から私を借りて来たなんて、さすがに言わないとは思うけど…。
バカ正直なところもあるから、突然何を言い出すかわからないよ。
冬の一歩手前で肌寒いのに、冷や汗がビッショリと湧き出てくる。
そんなこんなで、あっと言う間に並び順の最後である自分達の番に…。
司会者は、再びニヤけながら蓮にマイクを向けた。
「柊くんは、誰からお連れさんをお借りしてきたんですか?」
嫌みたらしい質問に口元を緩ませる司会者。
そして、蓮の答えに期待を寄せて息を呑む生徒達。
司会者め…。
そんな意地悪な質問しないでよ。
しかも、その質問に対して蓮はどう答えるのよ…。
まさか…、大丈夫だよね。
本当の事を言わないよね…。
梓は額から滝のような汗を流し、妙な胸騒ぎが起こりながらも蓮の方に視線を当ててみると…。
ちょうど目があった蓮は、まるで梓の心を見透かしているかのようにニヤリと微笑んだ。
「こいつの両親から借りてきました。」
「あっ…、ご両親から。そーゆー意味ね。」
それまでずっと生きた心地がしなかったけど、蓮の答えにホッと胸を撫で下ろす。
イジワルトリオの蓮でも、さすがにそこまでイジワルじゃないよね。
機転を利かせた回答により一旦気持ちのピークは去ったけど、悲劇の幕開けはこれからだった。