……すると。
「ハアッ……ハアッ……梓っ…。」
ビクビクと震えている背中から聞こえてきた声は、いつも身近で聞いている声。
確認の意味も込めて恐る恐る扉の方に振り返ってみると…。
そこには、前方扉に手をかけて息を切らしている蓮の姿があった。
「柊…。」
先生は教室に姿を現せた蓮を見るなり、驚愕した様子を見せた。
私達の関係が既に蓮にバレている事を知らないから、尚更だったと思う。
逆に私は教室に現れたのが蓮だと知ると、ホッとするあまり全身の力が抜けた。
蓮は先生の事など気にも留めずにズカズカと教室に入り込むと、ひと時の迷いもなく私の手をギュッと強く握りしめた。
「………ほら、行くぞ。」
「えっ…?」
「借り物競争の今年のお題が【大事なモノ】だから。…先生、梓を借りていくよ。」
「えっ…!ちょっと…蓮。」
「柊…。」
蓮は私の手を取ったまま廊下へと足を進ませた。
現況が把握出来ずにあっけらかんとしている先生に対して、蓮は去り際に一旦立ち止まってニヤリとひと言。
「まぁ…、梓は元々俺の女だし、そう簡単には返さないけどね。」
吐き捨てるように戦線布告をした後、時間制限のあるステージへ向かう為に私の手を引きながら外へと全力で走った。
ーーこうして、突如として略奪行為に走った蓮は、恋のライバルの先生に対して元カノの私に今でも恋心を抱いている事を知らしめた。