梓が教室に到着した頃、二番目の催し物であるバンドのライブがスタートしていた。
校庭に大音量が鳴り響く熱狂的なライブで盛り上がりを見せる会場。


軽音部を始めとし、一般生徒も参加可能なライブは、何度も練習を重ねてきたような熱い歌声と、汗を滲ませながら慣れた手つきで各々の楽器の音を奏で合わせている。



男女関係なく大きく腕を振りながらリズムに乗って盛り上がる生徒達。
まるで、本物のライブ会場のよう。

活気ある声援が、ステージ近辺で後夜祭を見守っていた教師達をアッと驚かせていた。





梓は教室に着くと高梨にそっと近付き、首を傾けてニコッと甘えた声をかけた。



「先生っ。」



高梨は梓の声に反応して振り返った。
すると、校庭からの光をうっすらと浴びている梓の姿が目に映る。



「菊池…。ここまで一人で来たの?」

「うん。校庭から先生の姿が見えたから来たんだ。」


「…誰にも見られてない?」

「大丈夫だよ。今はライブで盛り上がっているから、誰もここには来ないはず。」


「じゃあ、ここから一緒に後夜祭を見よっか。」



静寂に包まれる教室で、先生と2メートルほどの距離を置いて、遠目から後夜祭のライブを一緒に眺めた。



秘密の恋愛は、ドキドキワクワクしてスリル満点だけど……。
先生との関係が誰かに見つかってしまったら、先生は社会的制裁を受けてしまう可能性がある。

私は間違いなく退学に…。




リスクを伴う恋愛をする私達にとっては、これが現実。
日常会話ですら制限される。
先生は私の名前も呼び方を間違えないように、学校では十分注意を払っている。

私達はこうやってこっそりと愛を育んできた。



でも、これが自分にとって本当に幸せな姿なのか、たまに分からなくなる時がある。