タックス侯爵家の紋章をつけた馬車は、滑るように学院の門をくぐっていく。
 わたくしとライル様を乗せて、昇降口の前で静かに止まった。ライル様はすぐさま馬車から降りてわたくしをお姫様抱っこしようとしてくる。

「さあ、リア。僕にしっかり捕まって」
「ライル様、わたくし自分で降りますわ。もう呪いの影響もないですし、問題ありませんわ」
「……万が一リアが怪我でもしたら、僕は馬車を作った業者から調査を入れるよ?  馬車の設計に問題がなかったか、ステップの角度は? ああ、もちろん僕のエスコートも見直して勉強をやり直さなければ」

 ライル様が笑顔のまま圧力をかけてくる。そろそろ馬車から降りるときのお姫様抱っこをやめてもらいたくて、訴えてみたけれど、とんでもないことになりそうなので断念した。

「わかりましたわ、でも、本当にもう大丈夫ですのに」
「では、僕がリアに触れたいだけだと思ってもらえないか?」
「それは……もう、ライル様ったら、仕方がないですわね」

 そんな風に言われてしまえば、嫌だと言えない。むしろ喜んでしまうわたくしは、どうしようもないと思う。