ずっと頭の中で想像していた愛称を口にする。たったこれだけでも胸がキュンキュンと切なくなり、頬は熱を持つ。
 ダメだわ、ライオネル様が好きすぎて愛称ひとつでこの体たらく……!

「ちょっと! それではご家族様と同じじゃないの!」
「ええ、ライオネル様のお父様やお母様がそうお呼びしていたので、真似してみたのですけれど」

 シルビア様が、両目をこれでもかと見開いて睨みつけてくる。何か失敗してしまったのだろうか?

「ありえないわー! いい? 貴女は婚約者なのよ! この世でただひとり、ライオネル様をどんな愛称で呼んでも許される存在なのよっ!?」
「はい、確かに」
「それなのに、そんな平凡な愛称で呼ぶなんてライオネル様を馬鹿にしているの!?」

 シルビア様の言葉に衝撃が走る。なんてことだろう、愛称で呼びさえすればいいと、わたくしは考えていたのだ。これではライオネル様の婚約者として、完璧に役目を果たしていると言えない。

「そういうことですのね! これはわたくしの怠慢ですわ!」
「そうよ! まずは特別な愛称を考えないと!」
「では、こう言うのはどうでしょう。ネル様とか」
「うーん、悪くないけど、ライオネル様っぽくないわ。やっぱり獅子のような凛々しさを愛称に入れたいわよね」
「そうですわね……」