とある事情で無言になったら、超絶クールな婚約者様が激甘溺愛モードになりました。


 しかも、わたしの名前までご存じだなんて……なにか失敗してしまったのかしら?

「頭を上げてちょうだい。同じ学院の生徒なのだから、そんなにかしこまらないでほしいわ」
「はい、ありがとうございます……」

 そろそろと顔を上げれば、輝く金色の波打つ髪は腰で揺れ、翡翠のような澄んだ瞳は吸い込まれそうだ。気品に満ちた佇まいに、自分との格の違いを見せつけられる。

「ねえ、貴女。ライオネル様をお慕いしているの?」
「えっ、いえ、そんなわたしがライオネル様をお慕いするなんて、とんでもないです」
「そう? 残念ね。とてもお似合いのふたりだと思ったのに」
「……えっ?」

 マリアン王女がなにを言いたいのかよくわからない。わたしとライオネル様がお似合いだと、確かに言ったけど本当に認めてくれたのか?

「だって、黒板の落書きや、お水を校舎の中で運ぶのは大変だったでしょう? そんな頑張り屋さんですもの、ライオネル様にピッタリのご令嬢だわ」

 確かにライオネル様への想いは隠していたなかったけど、ハーミリアへの嫌がらせは誰にも見られていないはずだった。もしかしたら、王族だからなにか伝でも使って調べたのだろうか。これは、答えを間違えたら処罰を受けてしまうかもしれない。

 目の前のマリアン様は優雅に微笑んでいるけれど、背中を冷たい汗がつたっていく。