あの方に声をかけられたのは、ほんの一週間前のことだ。
いつものようにハーミリアはライオネル様の隣にふさわしくないとわからせるために、黒板に書いたり机の上からバケツの水をかけてやった。
それなのに、なんでもない顔で「まあ、ちょうどよかったわ。机が汚れてきたから綺麗にしたかったの! どなたかしら? お礼を言いたいわ」なんてわけのわからないことを言った。
その言葉で馬鹿にされているのだと理解した。
一気に頭に血が昇ってすぐさま怒鳴りつけたかったけど、相手は伯爵令嬢だ。いくら学院の中とはいっても身分の問題はゼロにはならない。
わたしが名乗り出たところで、処罰を受けるのは目に見えていた。だから悔しくて悔しくて、ギリギリと奥歯を噛みしめた。
「貴女、モロン男爵家のドリカさんね」
「……えっ? はっ、失礼いたしました。マリアン王女様!」
意外な人物から声をかけられて、慌てて慣れないカーテシーを返す。
男爵令嬢の私に声をかけてもらえるなんて思ってもみなかった。第三王女のマリアン様は国王陛下と王妃殿下から深い寵愛を受けている末王女だ。そんな雲の上の方がいったいなんの用で声をかけてきたのか。
マリアン王女の後ろには、トライデン公爵家の令嬢ローザ様と、シュミレイ辺境伯の次男テオフィル様が控えている。



