シャラリと手首につけていたブレスレットが滑り落ちた。これはライオネル様に初めてもらった誕生日プレゼントだ。
三連のアクアマリンがついたもので、チェーンだけ変えて十年間ずっと身につけている。わたくしの宝物のひとつだ。ライオネル様の瞳と同じ色のブレスレットが嬉しくて、寝る時ですら着けていた。
つい先日宝石が壊れていることに気が付いたけれど、ライオネル様からもらったプレゼントを外したくなくかったのだ。
あ、いけない。壊れてもつけているなんて、わたくしの愛が重すぎると引かれてしまうわ。
「え、これ……! ハーミリア、この石が壊れたのはいつだ!?」
いつになく真剣な様子のライオネル様に、驚きつつも記憶を漁っていく。
ブレスレットが壊れていると思ったのは、確か歯の痛みに倒れた後のことだ。お医者様の診断を受けた時に、ブレスレットの宝石がふたつも壊れているのに気が付いたのだ。一瞬気が遠くなって、お医者様の存在すら忘れてしまった程だ。
でも確かにその前の日の夜は、キラキラと透き通る宝石がブレスレットの台座に輝いていた。思い出したところでサラサラとペンを走らせる。
【ハッキリとわかりませんけど、わたくしが静養する前までは無事でしたわ】
「……そうか! やっとハーミリアの治療方法がわかった。すぐに手配する」
ライオネル様の笑顔が麗しいのはかわらないけれど、その瞳の奥に見たことのない闇を感じた。



