ハーミリアがなにも話さなくても、コクリと頷く仕草が愛らしくてたまらない。にやけそうになる顔を引き締めるのに苦労した。華奢なのによく食べるハーミリアを見ているだけで癒される。
マルグレン伯爵家の家令から歯が痛くて話ができないのだと聞いたので、少しでもハーミリアが喜ぶようにと手土産も毎日用意した。
状況に応じて耳につけた通信機からジークの指示が飛ぶ。
《ライオネル様、持ってきた手土産は美味しかったか聞いてください》
《今日はハーミリア様の顔色がよさそうなので、調子がいいか聞いてください》
《次は花を持ってくるとお伝えください。あ、食べ物だけでは飽きるだろうと心配されてたことも併せてお伝えくださいね》
《ライオネル様がまとめた授業のノートをさりげなく渡してください》
ジークの的確な言葉にふたりきりでも落ち着いて過ごすことができた。
加えて僕の方でもハーミリアの症状について調べていたが、有効な治療法が見つけられず対処療法しかできなかった。
それでもハーミリアと過ごす時間は幸せだった。僕だけが彼女を独り占めして、彼女の瞳に映るのも僕だけだ。
だけど、そんな幸せな時間は長続きしなかった。



