だけどハーミリアの前に出るとダメだった。
僕はハーミリアが好きすぎて彼女を前にすると思考停止してしまい、他の人間と同じように対応できなかったのだ。それでも今までは、嬉しそうに楽しそうに話しかけてくれるハーミリアを、五感のすべてを使って受け止めてきた。
本当は彼女を前にすると、心臓が壊れるほど激しく鼓動して、息をするのも忘れてしまいそうになる。
彼女の声は僕の耳に心地よく、ずっと聴いていたくなるから、いつも返事がひと言で終わってしまった。
彼女の笑顔を見れば顔が緩んでだらしなくなるから、いつもより表情筋に力を込めていた。
視線なんて合わせたら目を逸らせなくなるから、いつもこっそりと盗み見ていた。
もし彼女と同じクラスだったなら、成績を維持するのも難しかっただろう。だってハーミリアに見つめられただけで、頭の中が花畑になってしまうのだから。
それなのに、昨日からひと言も言葉を発してくれなくなった。
あの高く澄んだ声が聞けない。貴族らしい笑顔を貼り付け、心から笑っていなかった。
「どうすればハーミリアを引き止められるのだろうか……ジーク、なにかいい案はないか?」
「いや、策はいくらでもありますけど、ライオネル様はハーミリア様の前ではポンコツですからね。どうにもなりませんて」
「うぐっ、確かにそうだが……それでも、なにかあるだろう!? 頼む、僕はハーミリアを失いたくないのだ!!」



