とある事情で無言になったら、超絶クールな婚約者様が激甘溺愛モードになりました。


 授業などまったく耳に入ってこなかった。
 学院で学ぶ内容はすでに履修していて、ここでは人脈づくりや王太子殿下の側近としての役割がメインだから、そこは問題ない。

 大問題なのは、僕が婚約者としての役割を果たしていない可能性があるということだ。
 しかもその原因に気付けない。原因がわからなければ対処もできない。
 八方塞がりだ。

 ランチの時間もハーミリアはアルカイックスマイルを貼り付け、野菜ジュースを飲んだだけだった。
 いろいろと聞きたいのに、うまく言葉が出てこなかった。

 帰りの馬車でもなにも話さないから、思い切って声をかけてみたけど、朝から一ミリも変わらない笑顔を返されただけだった。

 これは、まずいかもしれない。
 婚約者としての役目すら果たせないとなると、今後の僕の未来は明るいものではないだろう。今でさえすでに危ういというのに。

 僕はハーミリアを送り届けた後、タックス侯爵邸に戻ってきて真っ先に侍従のジークに声をかけた。

「ジーク、頼む。力を貸してくれ」

 僕の真剣な様子に、侍従はしっかりと頷いてくれる。
 まるで暗闇の中を手探りで進むような感覚に、不安が込み上げた。