とある事情で無言になったら、超絶クールな婚約者様が激甘溺愛モードになりました。


「ハーミリア! よかったわ、とても心配したのよ。どこか具合が悪かったの?」
「…………」

 痛みはマシになっていたものの、口が開けられない。やはり話すことは難しいようだ。
 わたくしはゆっくりと頷いた。

「ハーミリア? もしかして話ができないの?」

 もう一度ゆっくりと頷く。

「治癒魔法をかけたのに治らないなんて……まだ痛みはある? どこ?」

 優しいお母様の声にそっと左頬を指差した。さすがお母様だ、わたくしを理解してくれるのが早い。

「わかったわ、お父様にも相談するから待っていてね」

 優しく頭を撫でられ、その手の温もりに痛みで引き攣っていた心が緩む。思ったよりもダメージが蓄積されていたようだ。
 一日中痛みが続くのは拷問を受けているのと同じだと理解した。

 その後お父様とお医者様がやってきて問診を受けた。お父様の伝手で懇意にしている伯爵家に上級治癒魔法を使える医者がいたので、特別に派遣してもらったのだ。

「うーん、この治癒魔法でも痛みはなくなりませんか……ではせめて痛みを軽減する治癒魔法をかけましょう。お役に立てず申し訳ない」
「いや、無理を聞いてくれて感謝している。家令が治療費を用意しているから受け取ってくれ」
「あ、いや、なにもできなかったから受け取れません。それでは」

 お医者様はとても誠実な方で、本当に治療費を受け取らず帰ってしまった。
 痛みを軽減する魔法のおかげで少し楽になった気がする。でもやっぱり痛みはなくならないので完治はしていない。

「仕方ないわね。痛みがなくなるまでは、学院はお休みよ。ライオネル様には知らせを出しておくわ」

 こくりと頷いて、夕食に用意してくれたスープを口に流し込む。ポタージュやゼリー、プリンなら食べられるので、そういった食事だけでなんとかやり過ごしていた。