「なにっ!? 貴様なんて無礼なんだ! 私は帝国のウィンター伯爵だぞ!!」
「申し訳ありませんけれど、名乗りもされてませんし、レディに対する声かけではありませんでしたので仕方ないと思いますわ」
「ますます生意気な! 平民の分際で、このような口答えをするなど、この国の民の程度が知れるわ!」
「あら、申し遅れました。わたくしマルグレン伯爵が長女、ハーミリアと申します」
膝丈の黒いワンピースの裾を持ち、優雅に淑女のカーテシーをすると、ウィンター伯爵はポカンとしていた。
「伯爵家娘がなぜこのような格好をしているのだ? まあ、いい。それなら私のパートナーに相応しいな」
「ですからわたくしは婚約者を待っておりますので、お断りしましたわ」
帝国の男性はどうしてこうも人の話を聞かないのだろう。
「いいから、この国の貴族として私をもてなせ! それが貴族子女の役目だろう!」
「—— 僕の婚約者になにをしている」
「っ!?」
後ろから抱きしめるように、ライル様の腕がわたくしを包み込んだ。慣れ親しんだ温もりに安堵する。



