とある事情で無言になったら、超絶クールな婚約者様が激甘溺愛モードになりました。


「ねえ、貴方のお母様とお父様は近くにいるのかしら?」
「…………」
「もしかして困っていないかと思って声をかけたのよ。お父様とお母様がいないなら、ひとりでいるのは危ないわ」
「……いない」
「いない? お母様やお父様がいないのね?」
「さっきから、探してるのに……どこにも、いない。うっ、うわあああああ! お父ちゃんもお母ちゃんもいないよおお!」

 とうとう堪えきれなくなった男の子は大粒の涙を流して、泣き叫んだ。
 すっと不安だったのに、懸命に堪えていたのだろう。こんな小さな身体でひとりきりになって、心細かったに違いない。

「ひとりでよく頑張ったわね。立派だったわ」

 そう言ってそっと抱きしめる。ひとしきり泣いて落ち着いた頃に、ぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで拭いてあげた。小さな声で「ありがとう」と言われれば、わたくしの心はポカポカと温かくなる。

 迷子ならわたくしたちでご両親を探すよりも、大広場の警備に当たっている騎士たちに託した方がいいかもしれない。情報も共有されているから、その方がご両親に早く会えるだろう。
 もしかしたら、ご両親もこの子を探してすでに騎士に相談しているかもしれない。