とある事情で無言になったら、超絶クールな婚約者様が激甘溺愛モードになりました。


「いえ、そこまでは……」
「いいから! 本人がいいって言ってるからいいんだよ」
「……貴方様は世界一の魔道士、ナッシュ・アーレンス様でしたか」
「うん? 名乗ってなかったか? まあ、細かいことは気にすんな!」

 濃紫のローブを羽織り、そっと魔力を流すと一瞬だけ淡い薄紫の光に包まれる。その光がまるでリアの瞳の色みたいで、思わず笑みがこぼれた。これでこのローブは僕しか着られない。やっとマジックエンペラーだと名乗ることができる。

 そこで受付の女性が僕宛に手紙が届いていたと、まとめて渡してくれた。十通を超える手紙に素早く目を通して、リアの現状を理解した。

 僕のリアに、手を出す男がいる?
 僕とリアの婚約を王命で解消する?
 そんなこと、この僕が絶対に許さない——

 心の底から湧き上がる怒りは、凍えるような冷気をまとい僕の周囲を渦巻いた。でも怒りに染まる僕にはそれでも生温い。抑えきれない魔力の放出を転移魔法に変換して、僕のリアを取り戻しにいく。

「ではアーレンス様、失礼します」

 悪魔よりも冷酷な微笑みを浮かべて、僕はリアのもとへと向かった。