ああ、残念。賭けには負けてしまったようだ。
うまくいけば、平民に落ちるだけで済むかと思ったけど。
近衛騎士に腕を掴まれたと思った時だ。
「僕の婚約者に触れるな」
目の前に濃紫のローブが揺れる。
世界でも数人しか着用を許されていないと言われる、最上級の認定魔道士のビロードのローブ。
ふわりと鼻先をかすめる慣れ親しんだ柑橘系の爽やかな香り。光を反射してキラキラと輝く青みがかった銀色の髪。
いつもは鋭く光るのにわたくしにだけ柔らかく細められる、アイスブルーの瞳。
わたくしの愛しい人。
「ライル様……っ!」
あっという間に潤んでいく瞳から、涙がこぼれ落ちた。



