なんてことなの!
 せっかくライオネル様と視線が絡んでいたのに、わたくしから逸らしてしまうなんてありえませんわっ!!

 でも、振動が伝わって、ズキーン、ズキーンと痛んで口が開けない。
 ライオネル様に心配をかけたくないので、俯いたままなんとか痛みに耐え続けた。話すこともできなくて無言のまま馬車は進んでいく。

 かつてないほど静まり返った馬車の中には、なんとも言えない空気が流れていた。



 学院に着いて馬車から降りるときもそーっとそーっと足を下ろす。いつものように手を差し伸べてくれるライオネル様に話しかけることもできず、完璧な淑女の微笑みを浮かべて誤魔化す。

 ひぃぃぃぃぃっ!! 足をついただけですのに、痛いですわ——!!
 いったいなんですの!? わたくしになにが起こってますの!?

 しかも表情筋を動かすだけで激痛が走る。今まで叩き込まれてきた貴族令嬢魂で、アルカイックスマイルを貼り付けたまま校舎へと向かった。

 普段話しまくるわたくしがひと言も話さないから、ライオネル様はまだわたくしをジッと見つめている。

 こんなに見つめられたのは初めてではないかしら。
 歯は痛いけど、これはこれで嬉しくてたまらないわね!

「ハーミ——」

 その時、校内がにわかに騒がしくなった。