それは突然だった。

夏休みの途中の登校日。
今日の予定も終わり、あとは帰るだけ。
でも、久しぶりに学校に来たから、すぐに帰るのはもったいない。
別に帰ったからって予定もない。
だったら、菜々の教室でお話をしていたい。
教室には同じように数人が残っているが、個々の仲良しグループがやはり同じように他わいの無い話をしている。

だからといって、夏休み中、菜々と疎遠になっていた訳でもない。
毎晩のようにLINEもしている。
LINE通話だってしている。

でも、やはり顔を合わせて話すのは、別物だ。
話す度に、直接的に、瞬間的に、菜々の表情が受け取れる。
既読だの、スタンプだの、少しのタイムラグだって気にしなくていい。

登校日は基本的には午前中だけだから、今はもうすぐお昼頃。
教室の中は暑い。
エアコンだって消されている。

でも、窓を開け、ただ暑いだけの風が教室に流れてくる。

でも、そんな中で菜々は、ある一点を見つめて話を切り出した。

「晴良だけには教えてあげるね」

私はその言葉を聞くと同時に、菜々の視線を追いかけた。

そこには、登校日の後、もうしばらくすると部活が始まるであろうテニス部男子たち。

テニス部お揃いのTシャツを着て、部室から校舎の東端にあるテニスコートに向かっていた。

菜々も私の視線に気付いたらしく、人差し指で一人の男の子を指差す。

私は目をこらして、その男の子を見る。

「彰?」

「えっ?」

「はぁ?」

私はすかさず菜々を見る。

「どういうこと?菜々って彰のこと好きなの?」

「…」
菜々は返事をしない。

「ねぇ、菜々っばぁ、菜々って彰みたいなタイプが好きなの?」

菜々はずっと黙っている。

でも、自分の好きな男子を友達に教え、ちょっと照れるはずなのに、そんな表情すらない。
いたって冷静な顔。

「どういうこと?」

「実は私と彰くんって、ずっと付き合ってるんだぁ」

「はぁぁぁ?」

えっ?どういうこと?
は?

「えっ、いつから?」

「小学校の頃から」

「えええええっ」

「だ、だって、だって、菜々って東小だよね。彰って、私と同じ北小だよ」