桃香ちゃんと優くんと改札口で別れ、聖蹟桜ヶ丘駅のホームに立つ。

カントリーロードのメロディーが鳴る。

あるアニメ映画の舞台となったここでは、電車が来る時になるメロディーだ。

【特急 新宿】の電車。

私はその電車に乗った。
日曜日のまだ午後1時台の電車。
行楽帰りにはまだ早く、都心に買い物に出るにはちょっと遅い。

電車の中は空いていた。

私は座席に座り、正面に見える風景をぼんやり見ていた。

本当にあっという間だった。
でも、あの短時間でいろんな人に会えた。
そして、いろんな所にも行けた。
…ような気がする。

以前に住んでいたアパート。
近くに住んでいた悠ちゃんの家。
通っていた保育園。
そして、悠ちゃんの知り合いの桃香ちゃん。
さらに、桃香ちゃんの彼氏くん。
それは幼なじみの優くん。

世の中ってやつは、広いのか狭いのか、わからなくなるような出来事だった。

新宿に着き、そのまま中央線で東京駅に戻る。

そして、名古屋まで新幹線で帰る。

これで、今年のお年玉は見事に消えた。

新幹線が品川駅を出た辺りで、今朝が早かったため、そして、意外に歩き疲れもあり、うとうと眠り始めた。


“ぼくがずっと守ってあげるよ”

聞き覚えのある声。

いや、ちょっと違う。

変声期のせいで、少し低い声だった。

“ぼくがずっと守ってあげるよ”

そうだ。その声だ。

“ぼくがずっと守ってあげるよ”

保育園の時、他の子にいじめられても、道で転んでも、虫が怖くても、お遊戯会で赤ずきんちゃんの役が出来なくても…いつもいつも守ってくれた。

いつもいつも守ってくれるだけじゃなかった。

いつもいつも一緒にいてくれた。

保育園だけでなく、お互いの家でも…一緒に手をつないでお昼寝もした。お泊まりもした。一緒にお風呂にも入った。そして…


はっと目を覚ます。
新幹線は浜名湖の辺りを走っていた。

はっきりした夢だった。

でも、それは夢というより過去だった。

そうだ。
優くんだ。

昔の街で、いつも一緒にいた。
嬉しい時も悲しい時もいつも一緒にいてくれた。

昔の街でいちばん話をした。
嬉しい話も悲しい話もいつも聞いてくれたし、話してくれた。

昔の街でいちばん助けてくれた。
困った事も悲しい事もいつも解決してくれた。

それが優くんだった。


でも、今の街では違う。

お互いにお互いの生活をしている。

優くんは、桃香ちゃんと付き合っている。

今の街では、親友の菜々は幼なじみの彰くんと付き合っている。

そして、私は…

「幼なじみかぁ」

思わず口にしてまう。

そういう間に、新幹線は名古屋に着き、電車を乗り換え、今の街に戻る。

もちろん、家に戻ると、ママはご機嫌ななめ。
とりあえず「ごめんなさい」と謝ってみる。

「なんで、ひとりで行くの?言ってくれれば連れてってあげたのに」

「は?」

そっちで機嫌が悪いってか?

確かに、未だに優くんのママともLINEで交流があるみたいだし、きっと、調布辺りのママ友ともつながっているのだろう。

「ママだって行きたいんだからね」
と言うと、

【今、帰ってきました。ご心配をおかけしました。優くんにもお礼言っておいてね】
と、優くんのママにLINEを送った。