呼び鈴の音で、まどろみから引き戻された。
あれから少しの間うたた寝をしたらしい。
俺はソファーから身を起こし、伸びをしながらドアに向かった。
これから抱く女をお目にかかる瞬間ほど興奮する時はない。
俺は胸を躍らせてドアを開けた。
昨夜の女が立っていた。
「う……あ……」
昨夜と同じ黒一色の格好だ。
派手にメイクアップされた女の顔を凝視したまま、俺は全身を硬直させた。
「来てあげたわよ」
妖艶な笑みを浮かべて女が言った。
どことなく爬虫類を思わせる目つきだった。
「すまん、チェンジ――」
言うがいなや、俺は女に突き飛ばされて尻餅をついてしまった。
女は素早く部屋の中に入り込み、後ろ手でドアの鍵を閉める。
俺は尻を擦りつけながら後じさりし、蚊の鳴くような悲鳴を上げた。
なんだこれは……
俺は殺人鬼を呼んだ覚えなんかないぞ。
美人なら殺人鬼でもいいなんてことは断じてない。
夢なら早いとこ醒めてくれ。
女は腕組みをし、獲物を見つけた食虫花のような顔で俺を見下ろしていた。
どう見ても人殺しの顔だ。
「待て。ちょっと待ってくれ」
制するように片手を前に出し、俺はゆっくりと立ち上がった。
その間、急速に思考を回転させる。
刺激するのはまずい……
当たり障りのない会話で時間を稼ぎながら逃げ道を作る……
そうだ、先にシャワーを……
「どうしたのよ? 情けない顔して」
女が嘗め回すように俺を見た。
「ど、どうもしないさ」
精一杯の笑顔を作って答えたつもりだったが、きっと上手くいかなかっただろう。
女が部屋の奥を顎で示した。
部屋の奥に戻れという指示に違いない。
下手に逆らうのは危険と判断した俺は、女に背を向けることなく慎重に移動した。


