けれどヘアアレンジだけは、いつからか碇の仕事として任せていた。
こうして私の髪に触って許すことができる男性だって、碇だけ。
「…もう2年生も終わるのね」
三面鏡の前、髪に触れている執事からの返事はない。
その表情もちょうど鏡の外、どんな顔をしているかは見えなかった。
「高校生活って意外とあっという間ね」
今日の舞踏会は1年を締めくくる大切な行事。
この前まで3学期が始まったばかりだと思っていたのに、その3学期も気づけば終わりに近づいていた。
舞踏会が終われば、次は春休み。
そして3年生になる。
「…そうですね」
ここでやっと小さく返ってきた。
残り1年。
佐野様の言っていたことが本当だとすれば、あと1年で碇とも離れるということだ。
「───完成いたしました」
「……これ…、」
「…はい、今日だけは外させてもらいました」
切なく微笑んだ碇の首元には、いつも愛用していた朱色のアスコットタイが無かった。
その代わり私の髪の毛にリボンを絡ませるように付けられていて。