「理沙お嬢様、」
「っ…!来ちゃだめって言ったじゃない碇…!」
「ごめんなさい」
とうとうリビングに入ってきた男は、私がサッと背中に隠した相変わらずなおにぎりを見てしまったかは分からない。
けれど、優しい顔をして近づいてくる。
「こっ、これは私が食べるわ…!」
「嫌です、私も食べたいです」
「だめよ!私のおにぎりなんだからっ」
「明日一緒に食べましょう、お嬢様」
私が隠せば隠すほど、背中に隠したお皿を覗いてこようとする。
だんだん隠しとおすほうが面倒になってきて、もう開き直ってテーブルに置いた。
「な、なによ…、文句があるなら食べなくていいからね、」
「…いえ」
微笑んでいるようで、あまりそうではなかった。
なにを思っているのか、碇は想像よりずっと静かな反応でおにぎりを見つめていた。
「…碇…?」
そっと、とられた手。
夜中だったこともあって幻想的な雰囲気に流されてしまう。
「…早瀬さんが言っていたもの、欲しいと思ってしまいました」
「…え…?」
彼と同じ立場になると約束される未来。
それが何を意味しているのか、私は考えないようにしていた。



