ホールいっぱいに響いた音だけで、生徒たちは顔を覆った。
確実にグラスが何かに当たって割れた音。
そんな音が響く寸前、私の身体は何者かによって勢いよくうしろへ退避させられた。
「───理沙お嬢様、ご無事ですか。」
無事じゃないのはあなたじゃないの……。
パラパラと地面に散らばったガラスの破片には赤色が付着していて。
それは彼の額から流れていた。
紛れもなく血だ、私の前に立った男から垂れている血。
「碇…っ!!」
「碇っ、血っ、血が出てるよ…!」
「私は大丈夫です。理沙お嬢様、エマお嬢様、落ち着いてください」
彼は抵抗することなくまっすぐ佐野様を見据えて、振り下ろされたワイングラスを頭で受け止めたのだ。
そしてすっと息を吸うと、大きめの声でなるべく大勢に聞こえるように放った。
「こちらのことは九条 理沙の執事である私、碇にお任せください!!皆様はどうかお嬢様方とご自身の安全を第一に!!!」
動揺している会場を落ち着かせながら、距離を空けさせた碇。
私を守るように立つ背中が何よりも大きく見えた。
「…碇…、どうして、」
「だって、何度も呼んでくれたじゃないですか」



