そのすべて、俺は“執事”ではなかった。
そのときだけじゃない。
彼女の笑顔を見るたびに、俺と理沙お嬢様しか知らない日々を思い返すたびに。
『いかり…、しょうたろう。……いい名前ね』
『…!あっ、ありがとうございます…!理沙お嬢様のお名前もとても素敵でございますっ』
『そ、そーよっ、当たり前じゃない!』
出会ったばかりの頃は、まだあどけなさが残っていた。
つんけんしてしまう性格を自分ではまだ認めてあげられないから、強がってしまうお嬢様でもあって。
背伸びをして、大人ぶって、それでもたまに見せてくれる無邪気な笑顔が俺は好きだった。
『碇、…はい、これ』
『……こちらは、アスコットタイ…ですか…?』
『き、気に入らなかったら捨てていいから…!…あなたに似合うと思って、それと……いつものお礼よ…、』
『ありがとうございます理沙お嬢様…っ!
一生っ、大切にします……!!』
彼女の内に秘めた優しさは、誰だとしても敵うものはいない。
素直になれない性格の裏には、何よりも温かな愛情が隠れている。



