「…理沙…お嬢様、」
碇───と、彼女も俺の名前を呼んでくれたような気がする。
心さえ通じあっていれば言葉なんかいらないのだと。
本当はどうにか理由をつけてまでも欠席してほしかった。
行かせたくはなかった、行ってほしくもなかった、俺も来たくなかった。
たとえそんなことを思っていたとしても、執事の立場である自分は言葉にしてはいけない想い。
「碇、」
「…早瀬さん」
始まった舞踏会。
見渡すかぎり佐野様はまだ来ていないことにホッとしつつ、執事仲間である早瀬さんの隣に立って見守る。
「俺も去年はお前とまったく同じ立場だった」
「……俺は、」
「惚れてんだろ。九条様に」
「……、」
もう、嘘でも首を横には振れなかった。
そもそも俺は嘘がつけない人間で、平気で気持ちを誤魔化せるほど器用でもないから。
だから理沙お嬢様を最近はずっとずっと困らせてしまっていて。
「俺は執事としても男としても全然なので……自信がないんです」
「自信?」
「…自分の感情だけで突っ走った先に、理沙お嬢様を本当に幸せにできる保証が確実にあるとは…、胸を張って言えないので」



