「……ありがとう、碇」
その“ありがとう”は、ドレスを選んでくれて、可愛くヘアアレンジをしてくれたことに対してだけじゃない。
もっと大きいことへの“ありがとう”だった。
あなたが執事でよかった。
いつも、毎日、楽しかったと。
「碇。今日はずっと、…目をつむっていなさい」
「……理沙お嬢様…、」
佐野様は舞踏会に来る。
並んで立っているところをどうしたって見せてしまうし、一緒に社交ダンスだって踊るだろう。
そんな姿を見たくないんでしょう。
あなたが悲しい顔をするのを、私だって見たくない。
「私も……あなたに見てほしくないわ」
執事は、今日は観客。
全校生徒に御曹司やお偉い方、たくさんの人が集まる会場にて、見守ることだけが役目。
決して表舞台に出てはいけないのがルールだった。
「───…理沙お嬢様、」
「きゃ…っ!」
背中からぎゅうっと、つよくつよく腕が回った。
震えているから文句も言えなくて、そうしてくれることを私は嫌だとも思っていなくて。



