「おい、真希。どうした? さっきから黙りこんで」

鞄から論文の原稿を取り出して、ローテーブルに広げる。

これから仕事するのかな? じゃあ、いつまでも長居してたら迷惑だよね。

「今夜は帰ります。お仕事もあるみたいだし」

「これは仕事って言うより田原の書いた論文の確認をするだけだ。なぁ、なんかやっぱりお前変だぞ」

そりゃ、付き合いたての彼氏に“別の女の人からデートに誘われたらデートに行く”だなんて言われたら……変にもなるよ。しかもその相手は私の友達。

「私が変なのは昔からで相良さんだってよく知ってるじゃないですか、それじゃ失礼しますね」

へそを曲げて不機嫌になって、せっかく相良さんが忙しい中送っていくと言ってくれたのにそれをぞんざいに突っぱねてしまった。

まるで子どもみたいじゃない。

そう心の中で思いつつマンションを出る。そして盛大なため息をついて乾いた空気が吹き抜ける秋の夜空を見上げた――。