「初めは妹みたいに思っていた。けど、この可愛くてどうしようもない存在をどうにかして自分のものにできないかって、四六時中考えてる自分に気がついて……けど」

唇に笑みを浮かべたかと思うと、相良さんの表情がサッと曇る。

「当時、初期臨床研修医で半人前だった俺は、まだ真希を幸せにできる器じゃなかった。忙しさにかまけておざなりな付き合いになるくらいなら、告白を受けるべきじゃないと思たんだ」

好きだからこそ――。

そんな相良さんの想いが伝わってきて、じんと胸が熱くなる。あのとき両想いになったとしても忙しくて満足にデートもできず、子どもな私はきっと不満を募らせて相良さんを困らせてしまっていたに違いない。

「相良さんがあのとき言いたかったことっていうのは――」

「何年かかっても必ず俺はお前を迎えに行くって、そう言いたかったんだ。まったく、肝心なこと聞かずに逃げるなよ」

私の言葉尻を奪うと、相良さんは掴んでいた腕をその胸に引き寄せた。

「やっと捕まえた。真希、まだお前の告白が時効じゃなかったら……俺と結婚を前提に付き合って欲しい」

「え?」

「俺の気持ちは今でも変わってない。好きだ。あの頃からずっと」

相良さんの直球な告白が、私の胸を射抜く。

「あのとき、お前の告白を受け入れなかったこと、やっぱり怒ってるのか?」

私の気持ちを確かめるような不安の滲んだ声だった。フラれた本当の理由を聞いて怒るもなにも、当時彼がそんなふうに私のことを思ってたなんて予想もしていなかった。

全力でぶんぶんと首を振って見せると、相良さんはホッとして目を細めた。

「男として成長する前に先に真希を俺のものにしてしまおうかって何度も思ったし、ほかの男に取られるかもしれないって考えたら……告白を断ったこと、すごく後悔した」

「ほかの男に取られるなんてありえません。だって、私だって……相良さんを好きな気持ちは今も昔も変わってませんから」

あぁ、言ってしまった。

母から相良さんとは釣り合わないからと忠告されていたのに。まさか私のことを十年前から好きでいてくれたなんて聞いてしまったら、気持ちが溢れてもう我慢できなくなった。

「真希……」

私の名前を甘く囁くのが合図だった。互いに身体を引き寄せ合って次の瞬間には性急に唇を深く重ねていた。

「んっ……」

“あのときのキス、まだ残ってるだろ?”そう図星を指されて否定できなかった。

初めて相良さんに奪われたファーストキスのことを、人知れず考えるだけでもゾクゾクしていたなんて誰にも言えない。