「まったく、この間キスしたときもそうだったが、ほんと人の話を最後まで聞かないやつだな。告白してきたときもそうだ」

「……え?」

そう言われて、相良さんに告白したときのことがフラッシュバックする。

――私、その……自分の気持ちが抑えきれなくて、告白なんかして迷惑でしたね。
――別に、迷惑だなんて思ってない。今はただ……。
――ごめんなさい!
――って、おい! 待てって!

そうだ。思い出した。フラれたことがショック過ぎて、確かあのとき相良さん、なにか言いかけてたけど……私、走って逃げちゃったんだっけ?

たぶん、そのときの光景も母親に見られている。

まるで掴んでいないとまた逃げると言わんばかりに相良さんは私の腕を離さない。すると観念するように彼の口からぽろりと小さな呟きがこぼれた。

「十年前、お前に告白されて正直嬉しかったんだ。俺も……お前のことが好きだったから」

予想外の言葉が飛び出て目を瞠る。そして自分がどんな顔をしているかわからないけれど、ありとあらゆる表情がすとんと抜け落ちる感覚を覚えた。

私のことが好きだった? 相良さんが?

ではなぜ、自分はフラれたのだろう?という疑問がすぐに湧く。すると、相良さんは十年前の種明かしをするように、小さく咳払いをしてはぁと息づいた。

「俺が学生だったとき、論文がうまくいかなくてむしゃくしゃしてても、あの定食屋に行けば、お前の笑顔を見られると思うと馬鹿みたいにそわそわしてた」

あ、相良さんほっぺた掻いてる。

たぶん、本人すら気がついてないかもしれないけれど、これは相良さんが恥ずかしがっているときに出る癖だ。