怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~

大人になった今でもこんなふうに相良さんの前で泣いてしまうなんてみっともない。昔は友達と喧嘩したときや、せっかく相良さんに勉強を教えてもらったというのにテストでいい点を取れなかったとき、親と言い合いしたとき、めそめそ泣いては相良さんに慰めてもらったことを思い出す。

「相変わらず泣き虫だな」

すっと頭の上に温かくて大きな彼の手が載せられる。

あぁ、昔もこうやって慰めてもらったなぁ。

相良さんはそっと震える私の肩をやさしく抱き寄せ、抵抗することなく自然に身を委ねた。

なんでだろ、いつも人前で泣いたりなんかしないのに。

「お前、かなり酔ってるだろ?」

「……はい」

「ちゃんと帰れるか?」

帰る? そうだ、この時間は永遠には続かない。でも、このままずっと相良さんと一緒にいたい。

だから、帰りたくない。

「わかりません……」

カウンターの上にひとしきり食べ終わった皿と、ひとくち残したカクテルが入ったグラスをぼんやりと眺めながら、わざと相良さんを困らせるようなことを言ってみる。

「ったく、しようがないな」

スッと席を立つと相良さんは会計を済ませ、「そろそろ行くぞ」と私に目で合図した。