怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~

「その女性は脳幹だけが生きている、言わば植物状態になった。唯一、命と呼べるものを感じられるのは意識のないまま打つ心臓と脈拍だけ……その後、俺は上司に『お前は、覚醒する見込みのない患者の家族に対して、永遠と待ち続けるという苦しみを与えただけだ』って、めちゃくちゃ怒られたよ」

言葉が出なかった。生と死のはざまで相良さんは今まで想像もつかないほどの経験をしてきたことが伝わってきて、うっかり彼の手に自分の手を重ねそうになったけれど、彼は慰めて欲しくてこんな話をしたんじゃない、と伸ばしかけた手を止めた。

「いつ目覚めるかわからない患者を病室で見守り続ける家族を見ているのが正直辛かった。患者の予後のことも考えず感情任せな人命救助をしてしまったんじゃないか、俺は正しい事をしたのかって……思い悩んでるときにその家族から言われたんだ。『こんな状態でも生きてるんです。死んだら何もなくなってしまう。ありがとうございました』ってさ」

ようやく相良さんが私に顔を向けた。彼の表情は穏やかで、その家族の言葉がきっと相良さんを闇から救ってくれたんだと察した。

「親父さんのお見舞いに行くのは嫌か? 手を握ってその温もりを感じたとき、どう思う?」

不意に問われ、少し姿勢を正して考えてみる。