気を抜くと鼻の奥からツンとしたものがこみあげてきてぐっと唇を噛む。
こんな湿っぽい話、相良さんにとっては面白くもなんともないよね。
そう思ってなにか話題を変えようとしたときだった。
「あのさ」
相良さんが長いため息のような息をつき、カウンターの奥にぼんやりと視線を向ける。
「俺のレジデント時代、今でも忘れられない話があるんだ」
その表情に笑みはなく、グラスに注がれた飲みかけのウィスキーを手持ち無沙汰に何度か揺らし、それを置いたと同時に彼は口を開いた。
「心筋梗塞で低酸素脳症を引き起こしていたある女性が救急搬送されてきて、見た感じまだ三十代くらいの若い人だった。結婚して小さい子どもがいたな……もう手遅れだって、医師の判断で救命処置をどうするか話している上司を無視して、まだ諦めたくなかった俺はなんとかして心肺蘇生を試みたんだ」
結局、その患者は奇跡的に蘇生に成功し一命を取り留めたのだという。しかし。
こんな湿っぽい話、相良さんにとっては面白くもなんともないよね。
そう思ってなにか話題を変えようとしたときだった。
「あのさ」
相良さんが長いため息のような息をつき、カウンターの奥にぼんやりと視線を向ける。
「俺のレジデント時代、今でも忘れられない話があるんだ」
その表情に笑みはなく、グラスに注がれた飲みかけのウィスキーを手持ち無沙汰に何度か揺らし、それを置いたと同時に彼は口を開いた。
「心筋梗塞で低酸素脳症を引き起こしていたある女性が救急搬送されてきて、見た感じまだ三十代くらいの若い人だった。結婚して小さい子どもがいたな……もう手遅れだって、医師の判断で救命処置をどうするか話している上司を無視して、まだ諦めたくなかった俺はなんとかして心肺蘇生を試みたんだ」
結局、その患者は奇跡的に蘇生に成功し一命を取り留めたのだという。しかし。



