これから母と夕食に行く約束をしているから、という元同僚と別れて秋色に染まり始めた街路樹を横目に傘を差しながら歩く。人の恋愛話ばかり聞くのもそろそろお腹いっぱいになってきた。私ももう二十七だ。自分の恋愛もどうにかしたいと思うけれどなかなか現実はうまくいかない。

(せい)ちゃん、今頃どこでなにしてるのかな? 元気でやってるのかな?

喫茶店で話を聞いていたら、ふと〝彼〟のことを思い出してしまった。
元同僚の幸せそうな笑顔を思い出すとそっとため息が出る。彼女は悪びれもせず『真希だってかわいいし、料理なんてプロ並みじゃない? 話も聞き上手だし、本当はモテるんでしょ?』なんて言ってきたけど、その実私は一度も恋人を作ったことがない。
一五八センチと至って平均的な身長にカラーも入れていない肩までの黒髪ボブ、特にチャームポイントになる部位はないけれど、クリっとした二重瞼の目だけはよく「目力がある」と言われた。

本気で褒め言葉だと受け取ったことは一度もないけどね……。

友人の恋愛話を聞くたびに、過去の痛い失恋の記憶がチクチクと刺激され、私の初恋の相手だった彼のことが呼び起こされる。