怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~

「そうか……言葉が交わせないってことは、言語中枢をやられたんだな」

相良さんは特に驚くこともなく、無理に慰めの言葉をかけるでもなく淡々としていた。けれど、今、相良さんに優しい言葉をかけられたら……たぶんきっと泣いてしまうかもしれない。それくらい、父が健常者ではなくなってしまったという心の傷は、まだ完全に癒えていなかった。

「だからお店のほうも続けられなくなっちゃってお店を畳んだんです。私が継いでもよかったんですけど、あの店は父の店だし。相良さん、うちの店なくなったこと知らなかったんですか?」

「ああ、実はアメリカから帰国してきたばかりでバタバタしてたんだ。今の病院から契約の話があったりしてさ」

「そうでしたか……」

聞くと相良さんは慶華医科大学を卒業後、医師免許を取得しレジデント課程を終えて、脳神経外科専門の医療機関で臨床医として入局したらしい。その後、レジデント時代に取得したアメリカの医師免許試験(USMLE)を生かすため、カリフォルニアの大学にある医学部脳神経外科のラボにて研究医として功績を残した後、母校の教授から『母校の附属病院で働かないか』と打診があったという。この十年間、彼は絵に描いたようなエリートドクターの道を歩んできたのだ。