聖一さんがアメリカ行きを断ったという事実を知ってからというもの、なにをしていてもそのことばかり考えるようになった。
当の彼はいつもと変わらず、電話のこともなにも話してくれないから、なおさら私は悶々としていた。

「お父さん、とても調子いいみたいよ」

今日は仕事が休みで私は千田記念病院へ父の面会に来ていた。病室に到着したときにはすでに母がいて、父はいまにも雨が降りそうなどんよりとした空を、ぼんやりベッドから眺めていた。こんな日は室内も薄暗くて気持ちまで重くなりがちだけど、父の調子がいいと聞いてホッとした。

「聖一さんとはどう? うまくいっているの?」

ベッドの脇にある椅子に座りながら顔をニマニマさせながら母が尋ねる。初めは聖一さんと付き合うことにあまりいい反応をしなかった母だけど、色々と気を使って心配してくれているようだ。

「うん、いつも私が料理して健康管理もバッチリしてる。忙しいとお腹が空いてるのを忘れて仕事するから」

「ふふ、もうすっかり奥さん気取りじゃない」

母は全面的に聖一さんとの交際を応援してくれている。けれど、その彼が私と付き合っているせいで将来を狂わせていると知ったら、きっといい顔はしないだろう。