相良さんのマンションへ向かう車の中。

タイヤが滑るアスファルトの音がやけに大きく聞こえる。何を考えているのか、相良さんは車に乗ってから口を開こうとしなかった。

「あ、あの、なんか怒ってます？」

「別に」

そっけない返事に胸がチクリとする。思い切って聞いただけになおさらだ。そして再び車内に沈黙が戻る。

「やっぱり怒ってますよね？　私、なにか機嫌を損ねるようなことしました？」

相良さんは機嫌が悪くなると眉間に小さな皺を寄せて口数が少なくなる。昔からだ。

「怒ってる」

「え？」

「自分自身にな」

そう言うと、はぁ、と深くため息をついて信号が青に変わるとともにアクセルを踏み込んだ。

「俺はあの男が気に食わない。そんなヤツがお前にちょっかい出してたのを見てイラっとした」

あの男って、瀬戸先生のことだよね？

イラっとしたって？　それってヤキモチってこと？