「どうしたのメル」
「また…駄目だったよ」

 無邪気にパソコンを覗き込んでくるハルに向かってためいきをついた。わたしが見ていたのは、ライトノベル新人大賞の結果発表のページだった。頑張って書いたのにまた落選だ。佳作にさえ選ばれていない。

 はあ。やっぱりわたしなんてなにをやっても駄目なんだ。

「ねえ。メルはどんな物語を書いているの」
「どんなって、みんなが読んでいるようなファンタジーだよ。今ね。流行っているんだ」
「それはこの部屋にある小説のこと?」
「そうだよ」

 みんなが読んでいる作品は揃えている。流行りには敏感でいないといけないから。

「メルはそういう物語が好きなんだね」
「えっ」
「流行っている、ファンタジーだっけ。好きなんでしょう。だから自分でも書いているんでしょう」

 好き?それは…わたしは…どうなんだ。好きかと聞かれたのであたらめて考えてみる。でもよくわからない。

「小説がどんなものなのかメルから教えてもらったからちょっと理解した」
「そう。よかった」
「メルは小説家になりたいんだよね」
「そうだよ。小説家になりたい」

 黒い耳がぴょこんと動く。ぴょこぴょこと。それはハルが何かを考えているサインだ。

「でも悩んでいる」
「そうだね。認めてもらえない」
「それで僕のさっきの質問の答えは?」
「えっ?」
「ファンタジーが好きなの?」
「んんん」

 それは。どうなんだろう。

「好きかどうかなんて考えたことなかったな」
「メルが好きな話はなに?」
「ええと。ええと」
「僕のことはどう?」
「ハルのこと?」
「僕はメルが大好きだよ。雨の日に拾ってもらって、おいしいミルクをもらって、メルと一緒に過ごした時間を僕は忘れない」
「わたしも大好きだよ。ハルはわたしの大事な大事な友だちだから」
「じゃあ僕のことを書けばいい。メルが好きになってくれた僕のことを小説にしたらどうかな」

 ハルの言葉にハッと胸を突かれた。好きなものを書く。小説にする。でもそれは今まで自分が取り組んできたものとはジャンルが違う。違うけれど、ずうっと感じていたわたしの中のモヤモヤが晴れた気がした。

 きみと一緒に過ごした日々は忘れない。わたしの大切な思い出なんだ。それを、その気持ちを書こう。ありのままに、感じたままに文章にする。

「ありがとうハル」
「メル。やっぱりメルは笑顔がいい。もっと笑ってよ」
「うん。あっ」

 ハルが抱きついてきた。その体をしっかり抱きしめる。黒い耳がまたピクピク動いた。