早番終わりの木曜日
私は社内のスタジオを借りていた。


 
高校、大学はダンス部に入っていた。



社会人になった今でも、ダンス部時代の仲間とグループを組んで、市で開催される小さなイベントに出演することもある。



普段は市の施設を借りて、踊りたい曲を持ち寄ってストレス発散にただひたすら踊るっていうくらいだけどね。



社内には一面鏡張りのダンススタジオがいくつかあって、社内で働くスタッフも借りることができる。




1人で練習したい時にはもってこいのお気に入りの場所。




「さて、やりますか。」


最近買ったお気に入りのスポーツウェアに着替え
入念にストレッチをして鏡の前に立つ。



今日はフロア内を独り占めしているから携帯をスピーカーに繋げて曲をかけられる。



お気に入りの曲をひたすら連続で踊ると、体がスッキリして清々しい気持ちになった。



3曲目が終わったところで防音設備を施したスタジオの重い扉が開いた。


「すみません。他のスタジオがどこも空いてなくて...一角を少しお借りできませんか?」


と、発した男性は...え!加野さん⁈


「あっ、どうぞどうぞ‼︎」


「助かります。ありがとうございます!」



いつもの格好じゃないからか、たぶん気付かれていない。



帰りに挨拶したら良いよね。



2人になったからスピーカーに接続するのをやめてイヤホンをつける。



加野さんを見ると、ひたすら同じ曲を通しているみたいだけど、とてつもなく上手くて...



かっこいい。ずっと見てたいくらい。
共通の趣味もあるなんて最高すぎるよ。



あんまり見るとバレちゃうから程々にして...



一通りストレス発散には踊ったし、そろそろ振り作ろうかな。



今度イベントがあってメンバーから踊りたい曲のリクエストがあった。



そんなに得意じゃないんだけど、いつのまにか振り付け担当は私になっていて...
苦労しながらなんとか完成させている。



浮かんだ体の動きをいくつも試して、どんどん繋げていって...



集中しているとふと鏡越しに視線を感じた。



片方イヤホンを外してそちらをみると、



「あ、すみません!振り作られてるんですか?すごく良くて気になっちゃって笑」



「そんな!苦手なんですけどね。ありがとうございます!」



わーお、恥ずかしい。見られた...
さすがに挨拶しないわけには、だよね。



「あの...加野さん?いつも食堂利用ありがとうございます。」



「あ、えっ⁉︎もしかして佐藤さん⁇うわっ全然気付きませんでした!雰囲気違うから...」



やっぱり気付かれてなかったか。



「いつも髪結んで帽子にマスクですもんね笑」



「ダンスされるんですね。普通にうますぎて見とれました笑笑」



「いやいや、趣味程度ですよ。加野さんもダンスされるんですね!」



今まで何度かスタジオ借りたことあったけど見かけたことなかったな。


気づいてないだけで一緒に使ってたこともあったのかもだけど。


「あー、まぁそうですね。それなりには笑」



「へぇ、そうなんですね!」



仕事以外で会えるなんて、ちょっと嬉しいかも。



またダンスのとき会えるかもだけど...
...でも...連絡先知りたい。



2人きりの今がチャンスだけど
はぁぁ緊張する。聞けないよ...