お昼時、社員食堂に向かう。


売れる前はお金もなくて時間にも余裕があったからメンバーとしょっちゅう食堂に行ってたけど、最近は揃うこともあまりないから全然行けてなかった。



だいぶ、混んでるよ...



お昼時に来てしまったからチケット渡し口から商品受け取り口まで割と列ができていた。



まぁ今日はこの後オフだからゆっくり良いか。



んーと、何にするかな。
ほんとだ前はこんな定食はなかったな。


ショーケースに入っているメニューサンプルを見ながら選ぶ。



いくつか迷ったけど、ハンバーグ定食にすることにした。チケットを買ってスタッフに渡し、待つ。




「お待たせしました。」



「ありがとうございまーす。」



うまそ。定食を受け取って食べる席を探そうとしていると、



「俺これじゃないんすけど。」



と声が聞こえた。



振り返ると、どうも提供するのを間違ったらしいキッチンのスタッフが、申し訳なさそうな表情をしていた。


すると奥からすぐ別のスタッフが出てきて状況を聞いて謝罪している。自分のミスでなくてもそこまでできるのは、責任者なんだろうな。



しかし、間違えられた男は納得しない様子で...
混んでる時間だから、みんな注目していて俺もいたたまれない気持ちになった。



まだ箸つけてないし...
幸いあの男が食べたかったのは俺と同じハンバーグ定食らしい。



「あの、俺が取り違えちゃったみたいです。」




必死に謝罪していた責任者らしき女性は、帽子とマスクで目しか見えなかったが、ほっとしたような表情を浮かべて


「申し訳ありませんでした。ありがとうございます。」と別の定食を渡してくれた。



周りにあまり人のいなそうな席を探して食べ始める。



「うま。」


ガッツリな肉メインのおかずに、野菜もたくさん取れる小皿も3種類ついていて、これは身体が回復しそうだ。



「お食事中、申し訳ありません。」



振り向くと帽子をとったさっきの女性が隣にきて膝をつき、


「庇って下さって...」



と、とても申し訳なさそうに謝ってきて、
何だかこちらも申し訳なくなった。



「こっちも美味しいですよ。」



というと、嬉しそうに微笑んだ。その表情がとっても綺麗で。...やられた。



自分の仕事に誇りを持っているんだなと見てとれる姿勢と、それを褒められたときのなんとも言えない柔らかな笑顔にグッときて。



彼女のベージュのエプロンに付けられた名札には


管理栄養士 佐藤 凛花



の文字。




なるほど、この人が噂の栄養士。
会ってたった1日で心を奪われたこの日から
佐藤さんは俺の気になる人になった。