その後も美緒は「マジ国宝級のイケメン」とか「早く付き合っちゃえばいいのにー、もう」なんて私をからかってくるから、私はいちいち照れてしまった。

 それでもなんとか天ぷらそばを完食して、お弁当を食べ終えた美緒と共に席を立った。

 そして学食を出て、教室へと戻る道すがら――。

 偶然、岩倉さんと出くわしてしまった。

 私を見るなり、岩倉さんは虚を衝かれたような顔をする。

 私はなんとなく気まずくて、彼女から目を逸らしてしまった。

 ――すると。

「……あんまり調子に乗るなよ」

 すれ違いざまに、岩倉さんが耳元でそう囁いた。

 低くて小さな声だったけれど、確かにそう聞こえた。

 とても憎々し気に放たれた一言だった。

――やっぱり、体操着の件もお弁当の件も、岩倉さんの仕業みたいだ。

「どうしたの柚葉。早く教室戻ろうよ」

 岩倉さんの件で不安を覚え、つい立ち止まってしまった私に、美緒がそう声をかける。

「う、うん」

 ハッとした私は、慌てて笑顔を浮かべてそう答える。

 美緒に心配かけたくないから、岩倉さんの件は黙っておくことにした。