ケーキを食べ終えて、私たちはレストランを退店した。

 お店から、小さな花束のプレゼントをもらったので私はそれを抱えている。

「きれい……」

 ロビーに戻るためのふたりきりでエレベーターに乗り、改めて花束を見た私は呟く。

 ピンクや赤の鮮やかなガーベラとかわいらしいカスミソウが束ねられていて、いい香りが漂ってきた。

「ゆずのほうがきれいだよ。……なんてね」

 りっちゃんが冗談めかしてそんなことを言ってくる。

 さすがにちょっとキザすぎる台詞だったからか、笑いを堪えているような顔をしていた。

 おかしくなって、私も「あはは」と笑い声を漏らしてしまった。

 そして再び、きれいな花束に視線を落とすと。

「……ゆず」

「え? ……!」

 名前を呼ばれたから顔を上げた私だったけど。

 その後感じたのは、唇に触れた柔らかくて熱い感触。

 なんとりっちゃんが私にキスをしてきたのだ。

「ゆずがかわいすぎて、しちゃった」

 驚きのあまり硬直している私に、りっちゃんはニッと笑って事も無げに言ってくる。

 その言葉で我に返った私は、ボッと顔が熱くなってしまった。