私はかっこいいりっちゃんが大好きで、憧れていた。

 勉強は大嫌いだったけれど、塾にりっちゃんがいると思うと行くのは全然苦じゃなかった。

 優秀なりっちゃんに少しでも近づけると思うと、宿題を頑張ることだってできた。

 ――それなのに。

 りっちゃんはお父さんの転勤でアメリカに引っ越すことになっちゃったんだ。

 また日本には戻ってくるって話だけど、少なくとも五、六年は難しいらしい。

 五、六年なんて、長すぎるよ。

 小学生の私にとってはそんな期間永遠と同じように感じられた。

 その日は、私とりっちゃんが塾で会える最後の日だったんだ。

「り、りっちゃん大好きっ……! また絶対、会おうね!」

 泣きながらだから、たどたどしい口調になってしまった。

 りっちゃんは表情を変えなかったけれど、私の頭を優しく撫でる様に叩く。

――そして。

「今度会えたら俺、ゆずをもう絶対に離さないから」

 私を真っすぐに見つめながら、静かに、だけどはっきりとそう告げた。

「え……。う、うん!」

 私は慌てて返事をした。