ゆずが微笑んで俺にそう言った。

 突然の誘いに俺は戸惑う。

「え、今から?」

「うん! だってりっちゃん元気ないみたいだし~。そういう時はとりあえず遊ぶのが一番だよっ」

 明るい声を上げて、屈託ない笑顔を浮かべるゆず。

 その声を聞き、かわいらしい笑顔を見ただけで、不思議と暗い気持ちが萎んでいく。

 確かにゆずの言う通り、このまま沈んだ心で家に帰るのは嫌だった。

 いつもは塾が終わったらすぐに帰宅しているけれど、少しくらいなら遊んでも大丈夫だろう。

「うん。……ゆずと遊んでく」

「やったー! じゃあ早速行こっ」

 ゆずが俺の手を引いて、塾の教室を飛び出した。

 その俺よりひと回りくらい小さな手はやけに温かい。

 俺の少し前を走るゆずの顔は、わくわくとした気持ちが全面に表れているように見える。

 俺と今から遊ぶのを心から楽しみにしてくれているのだろうか。

 だけど、胸を躍らせているのはむしろ俺の方だ。

 ゆずと塾を出て公園へと一緒に向かっている間に、すでに悪かった模試の結果なんてあまり気にならなくなっていた。