「でも今日は用があったんだ。柚葉ちゃん、悪いんだけど化学の教科書貸してくれない? 忘れちゃってさ」

「うん、いいけど……」

 頷いて机の中から化学の教科書を出そうとした私だったけど。

「はい。これ俺の科学の教科書」

 私が健吾くんに差し出す前に、なんとりっちゃんが自分の教科書を渡した。

 にんまりと笑みを浮かべているりっちゃんだったけど、鋭い目は全然笑っていない。

 ひ、ひえっ。

 りっちゃんの眼光から圧を感じた私は、密かに身震いしてしまう。

「えっ、君が貸してくれんの?」

 少し驚いたように健吾くんが言った。

 確か、ふたりはまだ話したことが無いはず。

 りっちゃんは私から健吾くんの存在を聞いているだけだし、健吾くんは例の噂でりっちゃんのことを知っているだけだろう。

「うん。……ってか、自分の隣のクラスから借りればよくない? なんでわざわざこっちの校舎までやってくるわけ?」

 棘のある口調でりっちゃんが健吾くんに尋ねた。

 私はハラハラした気持ちになってしまう。

 ――だけど。