その瞬間、ゾッと寒気が背中に走った。
なんでかは分からないけど咲坂からは悪意しか感じない。そうか。咲坂は俺と空音のことをはめようとしたのか。
その証拠に咲坂は全然具合悪そうに見えない。
演技で空音のことを騙せてるようだが俺はすぐにわかった。
「大丈夫だ。俺に掴まれ。保健室まで送ってやる」
「ありがとう……」
とりあえずここは咲坂の演技にのっておこう。
空音に何か危害があれば危険だ。空音の前でこんなことをしたくないが……しょうがない。
俺はため息をつくと咲坂をお姫様抱っこで抱える。
咲坂はそれにのっかるようにぎゅっと俺に抱きついてきた。
やめてくれ。
そんなに抱きつくな。俺に触っていいのは空音だけなんだよ。
「伊織!」
心の中で文句が止まらない中空音が震える声で俺の名前を呼んだ。
それを聞いてズキンと痛む心。
くそっ。
空音にこんな思いをさせるなんて。俺は男失格だ。