「…えっ、俺が余裕?」

レースが終わって、その日のうちに車で戻る。

そーちゃんは私と睦海と祥太郎くんを乗せて運転する。

その体力にはホント、驚かされる。

「余裕なはずがないよ!!」

そーちゃんは運転しながら失笑する。

「えー、そう見えたよ?」

今日のレースで気になった、あの余裕について聞くと、そう回答された。

「いや、俺も余裕にしか見えないよ!」

祥太郎くんは私の意見に賛成で

「あんなにピッタリ付かれたら嫌がらせとしか…」

祥太郎くんは頭をガラスにぶつけた。

「あれくらいで嫌がらせとか言うなよ。
お前を簡単にパス出来るはずがない。
だから隙を狙ったんだよ」

そーちゃんは笑った。

「…まだまだ、速くなるよ、祥太郎」

そう呟くそーちゃん。

その横顔は嬉しそうで、悲しそうで。



…本当はまだ、引退なんてしたくないんじゃないかな。

今が一番、レースしていても楽しい時期だと思う。

今回みたいにマシントラブルで本来のクラスに出られなくて悔しいはず。

お店の状況の為にわざと自分に言い聞かせて、辞めるんじゃないかと私は思う。

それでもそーちゃんが決めた事だから。

あと残りわずか。

どうかそーちゃんの思うレース運びになりますように。

怪我なく無事に戻ってきますように。



…そして最後に。

シリーズチャンピオンになって欲しい。



「真由」

名前を呼ばれて我に返る。

「疲れただろうからゆっくり寝てていいからね」



そんな言葉。

一番疲れているのはそーちゃんなのに。

たまらなく愛しく思う。